【電卓演奏ロボット A-HOGE】Part2:モーツァルトの知らない電卓演奏の世界

こんにちは。2018年入学の後藤(@goto_statement)です。

Part1に引き続いて、電卓演奏ロボットの紹介をしようと思います。もしご興味があれば、Part1からお読みいただければ幸いです。

Part2では「電卓演奏」について紹介していこうと思います。

この記事はrogy Advent Calender 2022の5日目の記事です。


 

おかげさまで、電卓演奏ロボットはいろいろなところで展示させていただきました。東京ビッグサイトで行われる「Maker Faire Tokyo」、大学の新歓イベント「若葉祭」、学園祭「工大祭」など… そういった展示会では、お客様から質問を受けることも多いのですが、こんな質問がよくあります。

  • これはどこから音が出ているんですか?
  • 電卓をハックしたんですか?
  • 計算結果ってどうなるんですか?

こういった質問に答えているとき「これ、自分が考えたんじゃないんだけどなー」とか思って、少し申し訳ない感じになるんですが、まあ、製作の発端が特殊ですし、仕方ないです。

そこで、この記事では、電卓演奏の謎について、解説してみようと思います。「これから電卓演奏をしてみたい!」という人や「電卓演奏をテーマに何か作品を作りたい!」という人は必見です。そんな人いるかはさておき。

まずは有名な電卓演奏家について

そもそも、電卓演奏という動画ジャンルがあるのはご存知でしょうか?日本で一番有名な電卓演奏家といえば、あたりめさんです。

YouTubeなどで話題になり、ネットニュースになったり、TVとかでも取り上げられている人です。電卓演奏ロボの展示では「あーあれかYouTubeでみたことある」というお客さんが半数くらいいる印象です。ちなみに電卓演奏ロボは、あたりめさんをモデルに作りました。

次に紹介したい電卓演奏家はこの人、タクーデンさん。

この人は和音にこだわった演奏をしています。そのため、台数が多いのが特徴。タクーデンさんには電卓演奏ロボットの初期段階からYouTubeのコメントなどで応援していただいていて、いつかコラボでもできたら、と思ってたりします。(なんで和音にこだわると台数が多くなるのかは、この記事を見るとわかると思います。)

この電卓は何なの?

さて、どちらの動画でも同じ電卓が使われているのがおわかりいただけたかと思います。そう、この電卓は販売されています。これはAmazonの販売ページ。

引用:https://amzn.asia/d/7WlIkSX

「演奏機能付き卓上電卓」です。つまり、そもそも電卓で演奏するというアイデアは、電卓演奏家の人が考えたのでもなく、この商品を作った電卓メーカーということになります。

「電卓をハックして鳴るようにしたんですか?」という質問の答えは「NO」「もともと、そういう電卓がある」ということになります。また「どこから音が出ているんですか」については、「電卓に入っているスピーカー」ですね。

電卓の特徴

さて、この電卓、いろいろ特殊です。仕様や特徴を列挙すると、

  • おそらく中国製
  • 起動時に聞きなじみのないメロディー(中国では有名?)が鳴る。
  • 時報らしきものもある。
  • 計算モード、時計モード、カレンダーモードがあり、モードを切り替えられる。
  • 計算モードでは、数字や記号を中国語で読み上げる。
  • カレンダーモードが演奏モードを兼ねており、カレンダーモードでキーを叩くと、ドレミの音が鳴る。
  • 3種類の音色があり、切り替えられる。
  • AR-7778とAR-8001の2種がある。形が違うのが主な違いで、機能は大差ないが、音量はAR-7778のほうが大きい気がする。

つまり電卓演奏家の方々やロボットが電卓を叩いて演奏しているときは、カレンダーモードであり、計算モードではないので、計算結果は出ないです。

ここまで読んでくださった方は「じゃあそれは楽器として売ってるものを楽器として演奏しているので、それは結局ピアノを演奏してるのと本質的に変わらないのでは」という感想を持たれたかもしれないのですが、それはまあそうかもしれないです… ただ、ここからが面白いので、お付き合いください。

電卓のキーと音階

ここから電卓の演奏機能についてもう少し掘り下げます。ちょっと音楽に関する専門用語を使っていきますが、ご容赦ください。

電卓のキーは長音階と対応します。長音階とは、簡単に言えばドレミファソラシドのことです。1から9の数字キーと+-×÷=の記号キーが、2オクターブの長音階に対応しています。

C調電卓から出る音。下線のある音はオクターブ上。

ここで問題なのが、キーには長音階しか割り当てられていないので、このままでは限られた曲しか演奏できない、ということです。レ#やシ♭など、#や♭のついた、長音階に無い音を使った曲も多くあります。さらに、キーを同時押ししたら無音になる仕様のため和音や伴奏が奏でられないという問題があります。

この2つの問題を解決する方法が、複数台の電卓を用意する、ということになります。あたりめさんやタクーデンさんが多くの電卓を用いているのは、この仕様のためです。

電卓の音程が怪しい

「長音階しか割り当てられていないので、#や♭を演奏するために複数台の電卓が必要」ということについて、もう少し説明します。

この電卓、実は結構、音程が怪しいです。ドレミファソラシドのドにあたる音(主音)なのですが、その音程には個体差があります。

どういうことか。これをご覧ください。

これは私がこの電卓を11台買って調べた、電卓の個体ごとの主音(ドにあたる音)の音程の分布です。Cというのはピアノなどにおいてドと呼ばれている音で、B=シ、C#=ド#、D=レとなります。AR-7778にピアノとほぼ同じ音程であった電卓が1台ありますが、そうでない電卓も多いのがわかるかと思います。

この話は、カラオケのピッチ調整に例えるとわかりやすいかもしれません。ピッチ調整機能がなぜか壊れていて、でたらめに+1.2とか+1.8とか-0.8とかされている、みたいな感じです。

そして意味が分からないのが、分布に偏りがあることです。もはやガチャ。

1回2000円程度で引ける、電卓ガチャの図

さて、上の図で赤で示している個体、これが私が電卓演奏ロボットでトルコ行進曲を演奏する際にピックアップしたものです。この4つを組み合わせると、こんな感じになります。

組み合わせれば最強の図

この図からわかるように、C調電卓(ピアノ白鍵と同じ音程の電卓)だけでは、黒鍵(#や♭)の音は出すことができませんが、他の電卓なら出すことができます。つまり補完しあう関係となります。例えば「ド・ド#・レ」というメロディーがあった場合は「C調電卓の1」「B調電卓の2」「C調電卓の2」と順に押していけば、演奏できます。

また、複数台あれば和音も演奏できます。例えば、ドミソの和音を出したい場合、図で青で示した「C調の1」「B調の4」「D調の4」を同時に押せばよいです。

つまりデッキが重要です。例えばSSR(B調電卓)をたくさん引いて、それだけでデッキを組んだ場合、非常に弱くなってしまいます。いかに補完しあえるかを考えてデッキを組む必要があります。ちなみに、あたりめさんが4台で演奏する際のデッキは、C#を2台、Dを2台であることが多いように思います。片方の手にC#とDを割り当てることで、左右の手でそれぞれ全部の音をカバーできるため、脳への負担が軽くなるはずです。電卓演奏ロボットでもそうしたかったのですが、C#電卓がなかなか引けなかったため、断念しました。

なぜ音程に個体差があるのか

これが問題ですよね。正直わからないです。分解とかもしてみたんですが、何が音程の変化をもたらしているのか、よくわからないです。

私は2つの説を考えています。1つ目は「普通に品質が悪いから」。2つ目は「意図的に音程がばらつくように電卓を作ったから」。後者の場合、電卓メーカーの人が「音程をばらつかせることで、それを組み合わせて演奏する人が現れるだろう」と、狙って作ったということになります。そんなことがあり得るのでしょうか…?これについては謎に包まれています。

電卓演奏の特殊奏法

音程の話からは離れて、奏法の話もしてみようと思います。電卓演奏の基本の奏法は指でキーを押して音を出す、ということになりますが、実はそれ以外の特殊奏法もあるのです。

まずは電卓演奏家(特にあたりめさん)について、次のような奏法が見られます。

  • キーを長押しし、離す際の音をパーカッションとして利用する
  • 2台の電卓のキーを交互に連打することでトレモロとする
  • 1から9の数字キーと+-×÷=の記号キー以外のキーを押すと、操作音として音階にない電子音が鳴るが、それをアクセントとして利用する
  • 机を叩く

  • 電卓を交換することでデッキを変更する

電卓演奏ロボットの特殊奏法

電卓演奏ロボットはあたりめさんをモデルに作っていますので、当然、特殊奏法もできます。

  • 連打
  • 電卓の端を叩く
  • 電卓を叩いている部品、ソレノイドを空中で動作させることで、パーカッションを表現する

それを全部やっているのがこちら。曲はミリシタというゲームの楽曲『花ざかりWeekend✿』です。

ミリシタ(アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ)を知らない人は、もしご興味があればYouTubeで何曲か聞いてみてください。私は曲とMVのカメラワークが好きになって、ミリシタのプロデューサー(プレイヤーの意)になりました。

というわけで、せっかくのアドベントカレンダーなので、ミリシタのクリスマスソングを貼ります。ぜひ見てください。

いかかがでしたか?

この記事を読んだみなさんは、もう電卓演奏マスター。AR-7778やAR-8001を買って、電卓演奏にチャレンジしてみてください。

無理そうならミリシタをインストールしてアイドルマスターに挑戦してください。

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