【キャチロボ】電装の紹介

こんにちは。2018年入学の後藤(@goto_statement)です。

キャチロボに出場したチーム「ラグビーの亡霊」で、機械と電気を担当していました。

この記事では、キャチロボ出場機体「KIRIN」の電装について紹介します。前回の記事でチーム紹介や動作動画を掲載していますので、こちらもご覧ください。

この記事はrogy Advent Calender 2022 14日目の記事です。

使用したモーター

KIRINのアームは4自由度となっていますが、その駆動にはDirect Drive Tech社製のDDT-M0602C-112を用いています。

DDT M0602C_112 ダイレクトドライブモーター 18V/0.55Nm/200rpm
引用元:https://www.switch-science.com/products/7647

キャチロボは速さを競うコンテストではないですし、KIRINの機構ではモーターは重力に抗って駆動力を出す必要が無いので、そこまでモーター出力を求める必要がないです。またこのモーターにはモータードライバーが内蔵されていて、RS485通信で制御できるためPCから制御しやすい、などなど、手軽に使えるような特徴を持っていつつ、値段も5000円程度で手ごろなのが決め手となって、採用するに至りました。

ただ、このモーターは少しくせがあって、固定がしにくいです。我々は、まずタップでM2.6(旧JIS…)のめねじを作って…

さらにクランプをして、そしてもう1つベアリングを用意して両持ち構造を作っています。

モータードライバーが内蔵されているので電気担当としては比較的楽なのですが、機械担当には負担をかけるモーターですね。

全体のシステム図

これがKIRINの電装系システム図です。

工夫点として、ロボット本体内は配線を簡素にするためディジーチェーンっぽくしています。4つのモーターとエンドエフェクタ用の自作基板「KILLING AIR」の電源供給、そして4つのモーターのRS485通信について、ディジーチェーン風になっているのがわかると思います。自作基板「KILLING HUB」によって、それを可能としています。

今回の電装はできるだけ簡素にして時間をかけないこと、そして場所を取らないことを目標としており、自作基板は上記の2種だけとなっています。

以降は詳細について書いていきます。

バッテリー周辺回路

バッテリー周辺は、とにかく部品数を減らしたいし、配線も簡素にしたいし、自作基板もできるだけ作りたくない、ということで、既成品の組み合わせでなんとかしています。

緊急停止時に電流を遮断できるようにリレーを使っています。リレーはオムロンのG7Z-4A DC24を使っています。採用の決め手はネジ端子があって基板を作らなくてよく、端子台にもなるからです。ただ許容電流は過剰ですね。リレーのコイルに対するフリーホイールダイオードとしてD1NL20U-5060を使っています。ちゃんとダイオードは入れましょう。感電します。というかしました。あぶないです。

ヒューズは自動車用のものを使っていて、ケーブルのように使えるものにしています。

バッテリー周り。左にリレー、右にヒューズがあります。

キャチロボのルール上、緊急停止ボタンと緑色の表示灯を付ける必要があるので、手元で押せて、手元で表示灯も確認できるようなものを作りました。これはPCを載せる台も兼ねています。

自作基板 「KILLING HUB」

モーターなどをディジーチェーン的につなげるための基板です。コネクタとLEDがあるだけでシンプルです。できるだけコンパクトにしました。

実際に機体に載せているところです。Elecrowで発注しています。

自作基板「KILLING AIR」

真空ポンプのスイッチングと、エンドエフェクタに使っているエアシリンダのための電磁弁、そしてサーボモーターを制御するための基板です。マイコンボードのArduino Nano Everyを載せています。真空ポンプと電磁弁のスイッチングはNch FETの2SK4017を使っています。

作った基板がこちらです。

それを使っている様子です。真空ポンプ(左)、サーボモーター(右)、電磁弁(右)です。サーボモーター周りの機構についてはまた別の記事で。

新基板「KILLING NewAIR」

基板「KILLNG AIR」についてですが、PCとの間のUSBケーブルで行うシリアル通信が切れるときがあるという問題があり、本番でもそれが起きてしまいました。また別の小型アーム(通称・爆速ハンド)を動かすために、もう1つ基板があったのですが、そちらはなぜかArduinoがアチアチになって壊れることがあるという問題がありました。

キャチロボのあと、工大祭(大学の学園祭)にて展示することになったため、この問題は解決したいと思いました。そのために考えうるすべての対策を施すことにしました。

そしてできたのがこちら。新基板「KILLING NewAIR」です。

改善点は3点です。1点目はFETを変えたことです。真空ポンプや電磁弁のスイッチングにはトランジスタアレイのTBD62083APGを使うことにしました。まず旧基板では逆起電力の対策をしていなかったのですが、していないのはやはりまずそうと考えました。そこで、ダイオードが内蔵されており逆起電力対策がされているTBD62083APGを採用しました。

また「爆速ハンド」用に、どうしても1つ電流を5Aほど食うソレノイドを動かす必要があったため、そこにはMTB30N06I3というFETを用いています。形や値段は同じなのに、2SK4017のドレイン電流が5Aでギリギリだったのに対し、MTB30N06I3とすると22Aとなり余裕があります。こちらには逆起電力対策としてダイオード1S10を別付けしました。

2点目はマイコンとそれ以外を完全に絶縁したことです。強電側(24V)のノイズ等が通信に悪影響を及ぼしているかもしれないという予想のもと、この対策を行いました。トランジスタアレイやFETについてはフォトカプラTLP785を用いています。またサーボモーターを接続したり、工大祭用に電飾としてLEDテープ(NeoPixel)をつけたりしたい、ということで、ここには高速通信が可能なフォトカプラTLP2630を採用しました。

3点目はユーザーにやさしい機能の追加です。タクトスイッチを押すとポンプや電磁弁が動いたり、機器をONにしているときは赤色のLEDがつくようにしました。

フォトカプラTLP785、トランジスタアレイTBD62083APG、FET MTB30N06I3の回路図です。
TLP2630では、VCCとOUTPUT端子の間に1k抵抗を入れることに注意
密です。
タクトスイッチを押している様子

これらの対策の結果として、工大祭では回路のトラブルは一切なく2日間動き続けました!通信トラブルもほぼなかったそうです。

こういうところはさぼっちゃいけないということが身に染みてわかりました。

いかかがでしたか?

2パートにわたって、私が担当した直動回転差動機構と電装の紹介をしました。

次回以降、KIRINに搭載した面白機構や制御についての紹介記事が続きます!今後の記事もお楽しみください。

【キャチロボ】直動回転差動機構の紹介

こんにちは。2018年入学の後藤(@goto_statement)です。

キャチロボに出場したチーム「ラグビーの亡霊」で、機械と電気を担当していました。

この記事では、キャチロボ出場機体「KIRIN」に搭載された直動回転差動機構について紹介したいと思います。前回の記事でチーム紹介や動作動画を掲載していますので、こちらもご覧ください。

この記事はrogy Advent Calender 2022 13日目の記事です。


製作した直動回転差動機構

こんなのを作ってました。(ツイートにはちょっと次回以降のネタバレが含まれますが、楽しみに待っててください!)

この動画で伸びたり縮んだりくるくる回ったりしている機構、これを「直動回転差動機構」と呼んでいます。

直動回転差動機構とは

機構の説明をする前に、まず言葉の説明をしたいと思います。

  • 直動機構:直線状にまっすぐ動く機構
  • 回転機構:回る機構

なんか当たり前みたいな説明ですが、直動機構という言葉に聞きなじみが無い人もいるかと思い、説明してみました。よく「レール」とも言われますね。回転機構は、ここではロボットアームの関節やタイヤなどを指しています。

差動機構(差動装置)とは、次のようなものです。

2種以上の機械部品のそれぞれの運動の差または和を取り出して一つの部分を動かす装置(差動装置とは – コトバンク

今回作った直動回転差動機構は「運動の差と和を取り出すことで動作する、直線状にまっすぐ動く機構と回る機構が合体した機構」ということになります。

機構を思いつくまで

なぜこの機構にしようと思ったのかを説明します。

キャチロボをやる!となったあと、まずメンバーで集まって、どんなロボットにするか考えました。そのあと、機械担当のたくぽんと私で、秋葉原のマクドナルドに行って、もう少し詳細にロボットの機構を考えました。そのときに描いていたスケッチがこれです。アイデアスケッチなのでまあ汚いですね。

ちなみに同じ日にロ技研の新入部員向けの「秋葉原ツアー」があり、2人ともツアーガイドをしていたので、秋葉原のマックでこの会を決行したのです。

さて、まずこの図がロボットの全体に関するアイデアスケッチです。

じゃがりこを持つ「手先(エンドエフェクタ)」をどのように動かすか、ということが議論の焦点だったのですが、それは次のようになりました。

  1. 長いレールに手先を付けて、レールの動きとレール自体を土台で回転させることで大きく移動させる
  2. じゃがりこを掴む場所と置く場所に対して手先の角度を合わせるため、手先付近でも手先を回転させる

ただ、ここで2の「手先付近での回転」をするために、直接そこにモーターを置きたくない!という話になりました。もしそこにモーターがあった場合、モーターという重たいものが土台から離れた位置にあり、しかもそれをモーターで動かさないといけない、という良くない状態となります。

そこでたくぽんが「なんか差動機構とか使って土台の真上に2つモーターがあるようにできないかな」とつぶやいたので、「こんな感じならできるのでは?」と私がこんなものを提案しました。

当時のアイデアスケッチをそのまま貼ってるのでわかりづらくてすみません。

このやりとりが、先ほどのツイートにあった「マックで30秒で思いついた」と言われているやつです。

機構の解説

上の図をもう少し説明してみます。

太線がベルト、円がプーリーを表しています。中央付近にある大きなプーリーにエンドエフェクタ(じゃがりこを掴む手先)がついていて、下側の2つのプーリーにはモーターがついています。灰色の四角の中にある5つのプーリーは相対的に動かないように、灰色の板に固定されています。灰色の板は上下に動くレールに乗っています。それ以外は土台に固定されています。

動いたときどうなるかを説明していきます。

上の図はモーターを赤矢印の通りに動かしたときのエンドエフェクタの動きです。2つのモーターは同じ向きに回転しています。このときにはプーリーの位置は動かず、まるでベルトだけがくるくる動くような感じになります。よってエンドエフェクタは回転します。

上の図では、モーターが別の向きに回転しています。このとき、エンドエフェクタが乗っている灰色の板が移動します。つまりエンドエフェクタは直動します。

動きは下のようにまとめることができます。

これは代表的なもので、例えば片方のモーターが止まっている場合、エンドエフェクタは回転と直動が混ざった動きをします。

KIRINに搭載した機構

基本原理は前述の通りなのですが、KIRINに搭載するにあたって、プーリー配置などはいろいろ工夫しました。まず初期案がこちらです。

この設計の工夫点は、動くところや先端側に、たくさんプーリーを置かないようにした、という点です。しかし、共通エリア(白いエリア)のじゃがりこにアクセスするためにはレールの長さを長くする必要があり、その長さだと白いエリアに入らないと自陣を通過できなくなります(当たり前ですが)。大会のルール上、スタート時からある条件を満たすまでは白いエリアに入ってはいけないため、不利になってしまうことが分かりました。

これを解消しないことにはどうしようもないので、いろいろ改善案を考えました。「エンドエフェクタ付近にエアシリンダなどの別の直動を入れる」「もう1つベルトを用意して、エンドエフェクタがレールより手前に来れるように軸をずらす」などのアイデアを出しました。2つ目の案を眺めていたら、おぼろげながらこんな機構が浮かんできました。

この機構であれば…

↑白いエリアに入らずに通過できる!

↑必要なときには進入できる!

思いついてよかったです!

使用した部品・加工

この機構の問題点は、ベルトがとても長くなってしまうことです。長いベルトを探すのには苦労しました。今回はミスミで取り扱っている搬送用タイミングベルト(ロングタイミングベルト)を使うことにしました。とても長いものまであるだけでなく、1歯単位で長さ指定ができるので、助かりました。

引用元:https://jp.misumi-ec.com/vona2/detail/110310533609/?HissuCode=LTBJAB-T5100-936

歯数計算にはInventorのベルト設計機能を使いました。初めて使ったのですが便利で良かったです。

次はレールについて。機械の直動部品といえばリニアガイドですが、これらはやはり高価ですし、長い棒の部分が鉄なので重いです。そこでローラー型のレール(R25-560L)を使っています。

引用元:https://www.monotaro.com/p/0922/9026/

プーリーについては、コスト削減と軽量化のため、アルミ板からCNCで削りだして自作しています。これは次回以降説明があると思いますので、お楽しみに。

その他、本体フレームはアルミ製です。肉抜きを頑張っています。

学ロボでよく見る地獄の肉抜き

最後に機構をアップで撮影した動画を載せます。アルミを使いまくったメカメカしいメカをぜひ見てください。

いかかがでしたか?

機構設計って面白いなーと思ってもらえたら幸いです。次は回路に関して紹介したいと思います。

工大祭2022で展示した作品紹介

初めまして、17のバンル( @17_bnr )です。

この記事はrogy Advent Calendar 2022の11日目の記事になります。

2022年10月29日・30日に工大祭が3年ぶりに現地開催されました。
ご来場いただいた皆さん,ありがとうございます!

作品紹介

自分は以下の作品を出展させていただきました。

作品写真

作品動画

作品概要

裏で鳴っている音程と同じ音程を
手元のスピーカーで鳴らすゲームです。
手元のスピーカーの音程は,
箱の中で手を上下させると操作します。
裏で鳴っている音程と手元のスピーカーの音程を
一定時間同じにできたらクリアです。
裏で鳴っている音程は1つ前のプレイヤーの
クリアまでの秒数を12で割った余りから選択しています。

作品紹介の記事って
「どうやって作ったか?」
に比べて
「なぜ作ったか?」
の記事が少ないな気がしたので,
今回は,主に「なぜ作ったのか」に絞って書いていきます。
(よって技術的な話は今回しません)

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はんだ付けVR作ってみた Part2 3Dモデル編


はじめまして、22のyasudaです。

この記事はrogy Advent Calender 2022の6日目の記事です。昨日のはんだ付けVR Part1の記事に引き続き、Part2では3Dモデルやゲームの背景について書こうと思います。ブログみたいなものを書いたことがないんですが、読むに堪える記事を書けていたら幸いです。

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はんだ付けVR作ってみた Part1 プロジェクト計画編

こんにちは、21のyoshizoeです。
この記事はrogy Advent Calender 2022の12/6の記事です。

普段はロ技研内のNHKロボコンをするMaquinistaという研究室(ロ技研内での組織)で活動しているのですが、CG-SQUAREという研究室で工大祭に出すために後輩のyasudaくんと一緒に部室ではんだ付けVRというゲームを作成したのでそれについて書きます。

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【電卓演奏ロボット A-HOGE】Part2:モーツァルトの知らない電卓演奏の世界

こんにちは。2018年入学の後藤(@goto_statement)です。

Part1に引き続いて、電卓演奏ロボットの紹介をしようと思います。もしご興味があれば、Part1からお読みいただければ幸いです。

Part2では「電卓演奏」について紹介していこうと思います。

この記事はrogy Advent Calender 2022の5日目の記事です。


 

おかげさまで、電卓演奏ロボットはいろいろなところで展示させていただきました。東京ビッグサイトで行われる「Maker Faire Tokyo」、大学の新歓イベント「若葉祭」、学園祭「工大祭」など… そういった展示会では、お客様から質問を受けることも多いのですが、こんな質問がよくあります。

  • これはどこから音が出ているんですか?
  • 電卓をハックしたんですか?
  • 計算結果ってどうなるんですか?

こういった質問に答えているとき「これ、自分が考えたんじゃないんだけどなー」とか思って、少し申し訳ない感じになるんですが、まあ、製作の発端が特殊ですし、仕方ないです。

そこで、この記事では、電卓演奏の謎について、解説してみようと思います。「これから電卓演奏をしてみたい!」という人や「電卓演奏をテーマに何か作品を作りたい!」という人は必見です。そんな人いるかはさておき。

“【電卓演奏ロボット A-HOGE】Part2:モーツァルトの知らない電卓演奏の世界” の続きを読む